そうな眼をしておずおずとそれを見ていた。
 簫《しょう》の音が起って騒がしかった堂の中が静かになってきた。繍《ぬいとり》のある衣服を着てかつぎをした女が侍女に取り巻かれて出てきた。
「さあ、どうかこちらへ」
 数人の侍女が杜陽の傍へきた。杜陽はどうしていいか判らなかった。
「君も往って式をすますが宜いだろう」
 主人が言った。杜陽はふらふらと起って侍女に引きずられるように紅い瓔瑜《しとね》の処へ往った。
 花嫁と花婿は其処で拝をしあった。女の体に塗った香料の匂いが脳に浸みて杜陽の心を快惚《かいこつ》の境へ誘った。彼は夢心地になって女の室へ伴れて往かれたのであった。
 杜陽は恥かしそうに俯向いている綺麗な少女と向きあっていた。杜陽はこの女は姑射《こや》の飛仙ではないかと思った。
「幾歳《いくつ》になります」
 杜陽は他に言うことがないのでそう言って聞いてみた。
「十六よ」
 女は紅くなっている顔を見せた。
「私はまだ姓も聞かなかったが、なんといいます」
「陳よ」
「お父様は、どんな官をなされておりました」
「お父様は、一度も仕えたことなんかないわ」
「そう」
 其処には青い焔を吐いている
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