のつくり」、31−3]紗燈の少年がきて立っていた。杜陽はその後から随いて往った。
 広い応堂《きゃくま》があって、五色になった衣服を着た顔の赤い四十前後の男が腰をかけていた。
「あれが旦那様でございます」
 ※[#「糸+逢のつくり」、31−6]紗燈の少年はそう言って出て往った。杜陽はそこで恭《うやうや》しく主人に向って礼をした。主人は席を離れてきた。
「さあ、どうか、君を待ちかねておった」
 杜陽は主人の言うままになって主人の席の前へ往って腰をかけた。
「ようこそ」
 主人は親しそうに言ったが、杜陽は不安だから俯向《うつむ》いていた。
「君は家の女《むすめ》と夙縁《しゅくえん》があるから、今晩婚礼しなくてはならないよ」
 杜陽は恐ろしかった。
「何も心配することはないよ、君の婚礼はとうから定まっておったよ、だから私は、君のくるのを待っておった」
 五六人の侍女が主人の傍へきていた。主人は侍女に向って言った。
「婚礼の準備《したく》をするが宜い」
 侍女達は引込んで往ったが、間もなく数十人の侍女が堂《へや》の中へいっぱいになるように出てきて、それが幕を張り席をこしらえはじめた。杜陽は心配
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