陳宝祠
田中貢太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)杜陽《とよう》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「糸+逢のつくり」、29−11]紗燈《ほうしゃとう》
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杜陽《とよう》と僕《げなん》の二人は山道にかかっていた。足がかりのない山腹の巌《いわ》から巌へ木をわたしてしつらえた桟道《かけはし》には、ところどころ深い壑底《たにそこ》の覗かれる穴が開いていて魂をひやひやさした。その壑底には巨木が森々と茂っていて、それが吹きあげる風に枝葉をゆうらりゆらりと動かすのが幽《かすか》に見えた。
壑の前方《むこう》の峰の凹みに陽が落ちかけていた。情熱のなくなったような冷たいその光が微赤《うすあか》く此方《こちら》の峰の一角を染めて、どこかで老鶯《ろうおう》の声が聞えていた。杜陽は日が暮れないうちに、宿駅《しゅくば》のある処へ往こうと思って気があせっていた。
その数年間、年に一二度は往復している途であるが、一歩を過《あやま》れば生死のはかられない道であ
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