燭が、とろとろと燃えていた。
杜陽は紅い霞に包まれているような心地《きもち》になっていた。その杜陽の眼に結婚の祝いにくる数十軒の親類の人達が映ったが、皆金のある身分のある人ばかりのようであった。
杜陽はその親類の中で主人の甥《おい》になるという男とすぐ友達になった。それは封という眼の鋭い背の高い大きな男で、怒りっぽい性質であったが杜陽には優しかった。
「封哥《ほうたい》さんは、怒りっぽい方だから、気をつけてくださいよ、お父様は、あなたを此処の後継者《あととり》になされようとしてますから、親類の者にどうかわるく思われないようにね」
女は時どきこんなことを言って杜陽に注意したが、彼はべつに気にかけなかった。
そのうちに女は妊娠して小供を生んだ。親類の者は集まってきてその生れた小供の祝いをした。杜陽は封生と二人で祝いの席をはずして女の室で酒を飲んでいた。
それは夏のことで酷く暑かった。封生はいきなり諸肌《もろはだ》を脱いで盃を手にした。杜陽にはその不行儀《ぶぎょうぎ》が面白くなかった。
「此処はあれの室じゃないか、たとえいなくっても、あまり無礼じゃないか」
すると封生が怒った。
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