「生意気なことを言うない、小僧っ子の癖に何を言うんだ、可哀そうな奴だから、此処へ置いて世話をしてやってれば、つけあがって、乃公《おれ》に向って唇を反《そら》すとはなんだ、乃公が黙ってれば、いい気になりやがって」
杜陽も負けてはいなかった。彼はいきなり傍の銅躋《とっこ》を取って封生に向って投げつけたが、それでも怒りが収まらないのでその袖を掴んでびりびりと引き裂いた。と、同時に封生の体は跳りあがって、咆哮《ほうこう》する声が四辺の空気を顫《ふる》わした。杜陽は後ろへひっくりかえった。獣の咆哮するような声がまた起った。
祝いの席にいた親類の者がばらばらと走ってきた。親類の者は猛り狂う封生を総がかりでなだめなだめ外へ伴れて往った。杜陽は起きあがってそれを追って出て往った。
「馬鹿、狂人《きちがい》、汝《きさま》なんぞに負けるものかい、さあ勝負をしよう、おい、逃げるのか、ようやらないのかい」
杜陽のそうした容《さま》を主人は階廊《かいろう》に立って見ていた。其処へ女が心配してきた。
「私はあの男を後継者にしようと思っていたが、もうしかたがない、それにあれをあんなに怒らしたなら、あの男の生
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