きて、皆に言いつけて黒衣の結び目を緩《ゆる》めさした。と、羽がはらりと脱げたようになった。魚は竹青と手を握りあって家の中へ入った。竹青は言った。
「いいところへいらしてくれました、もう今明日にも生れそうなんですよ」
魚は冗談にして言った。
「胎生《たいせい》かね、それとも卵生《らんせい》……」
竹青は言った。
「私、今、神になってますから、骨も皮も、もうかわっているのですよ」
二三日して果して竹青はお産をした。児《こども》は厚い胎衣《えな》に包まれて生れたが、ちょうど大きな卵のようであった。破ってみると男の子であった。魚は喜んで漢産《かんさん》という名をつけた。
三日の後、漢水の神女が集まってきて、衣服や珍しい物をいわってくれた。皆綺麗な女ばかりで、三十以上の者はなかった。いっしょに室の中へ入って嬰児《あかんぼ》のいる榻《ねだい》の傍へ往き、拇指で嬰児の鼻をなでて、増寿《ぞうじゅ》という名をつけた。
皆が帰った後で魚は竹青に問うた。
「あれは皆なんだね」
竹青は言った。
「皆、私の朋輩《ともだち》ですよ、いちばん後ろにいた蓮の花のように白い着物を着たのは、漢皐台《かんこうだ
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