宴をはった。そのうちに魚は酔って寝たが、眼を醒してみると舟の中に帰っていた。見るとそれは洞庭のもとの舟を泊めた所であった。船には船頭も僕もいた。皆顔を見合わしておどろいた。船頭と僕は魚の往っていた所を訊いた。魚は喪心していた人のようにわざと悲しそうな顔をして驚いてみせた。
枕もとには一つの包みがあった。開けてみると女のくれた新しい衣服、履《くつ》、襪《くつたび》など入っていた。黒い衣服もその中に入れてあった。また繍《ぬいとり》をした袋を腰のあたりに結えてあったが、それには金が一ぱい充ちていた。そこで南にむかって舟をやり、前岸《かわむこう》に着いて、船頭にたくさんの礼をやって帰った。
魚は家へ帰って二三箇月したが、ひどく漢水の竹青のことが思われるので、そこで、そっとかの黒衣を出して着た。すると両脇に翼が生えて、空に向ってあがって往くことができた。そして二ときばかり経つと、もう漢水へ着いたので、輪を描きながら下の方を見た。小さな島の中に一簇《ひとむら》の楼舎があった。魚はそこへ飛びおりた。侍女の一人がもうそれを見ていて大声で言った。
「旦那様がお見えになりました」
間もなく竹青が出て
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