竹青
田中貢太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)魚容《ぎょよう》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「竹生」はママ]
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魚容《ぎょよう》という秀才があった。湖南の人であったが、この話をした者が忘れていたから郡や村の名は解らない。ただ家が極めて貧乏で、文官試験に落第して帰っている途中で旅費が尽きてしまった。それでも人に物を乞い歩くのは羞かしくてできない。ひもじくなって歩かれないようになったので、暫く休むつもりで呉王廟の中へ入って往った。そこは洞庭のうちになった楚江の富池鎮《ふうちちん》であった。呉王廟は三国時代の呉の甘寧《かんねい》将軍を祀ったもので、水路を守る神とせられていた。廟の傍の林には数百の鴉が棲んでいて、その前を往来する舟を数里の前《さき》まで迎えに往って、舟の上に群がり飛ぶので、舟から肉を投げてやると一いち啄《くちばし》でうけて、下に墜《おと》すようなことはなかった。舟の人はそれを呉王の神鴉《しんあ》といっていた。
落第して餓えている男は、何を見ても聞いてもしゃくにさわらないものはなかった。魚は呉王の
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