をじっと注意していた。
 急に四辺《あたり》が明るくなって夜が明けたようになった。雨が竭《や》んで月の光が射してきたところであった。大異はやっと気がおちついた。
 死骸は依然として木の下で罵っていた。大異はさっきの鴉はどうしたろうと思って注意した。黒い鴉の影はもう一つも見えなくなっていた。
 遠くの方で叫ぶとも呼びかけるとも判らない声が聞えた。大異はその方へ眼をやった。背の高い怪しい者が月の光を浴びて、こちらへ向いて大|胯《また》に歩いてくるのが木の間から見えた。
 怪しい者はみるみる近くなってきた。それは額に二本の角のある青い体をした夜叉《やしゃ》であった。大異の口元には嘲笑が浮んだ。大異はまたへんな奴がきやがったが、今度はどんなことをするだろうと思って、またたきもせずに見ていた。
 夜叉は死骸の側へ来た。そこには木の上に向って何か言っている一つの死骸があった。夜叉はひょいと手を延べてその死骸の頭へやった。と、頭はぼっきりと折れたようになって夜叉の手に移った。それと同時に死骸は麻殻《あさがら》のように倒れてしまった。
 夜叉は手にした死骸の頭を大きな赤い口へ持って往ってむしゃむしゃと
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