雲が地平線に盛りあがっていて、陽はもう見えなかった。
 鴉の声が騒がしく聞えてきた。大異はもうあわててもしかたがないから、このあたりで一泊しようと思った。栢《すぎ》の老木が疎《まば》らな林をなしているのが見えた。騒がしい鴉の声はその林から聞えていた。木の下なれば草の中に寝るよりはよっぽど好いと思った。大異は林の方へ往った。
 林の外側に並んだ幹には残照《ゆうばえ》が映って、その光が陽炎《かげろう》のように微赤《うすあか》くちらちらとしていたが、中はもう霧がかかったように暗みかけていた。大異は林の中へ入ってすぐそこにあった大木の根本へ坐って、幹に倚《よ》っかかり、腰の袋に入れていた食物を摘《つま》みだして喫《く》いはじめた。
 ※[#「休+鳥」、第4水準2−94−14]※[#「留+鳥」、第4水準2−94−32]《ふくろう》の鳴く声が鴉の声に交って前《むこう》の方から聞えてきたが、どこで鳴いているのか場所は判らなかった。ふおうふおう、ふうふう、ふおうふおうというように鳴く※[#「休+鳥」、第4水準2−94−14]※[#「留+鳥」、第4水準2−94−32]の声の後から、また獣の鳴くような声も
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