が、緑の褪《あ》せた草の葉をばらばらと吹き靡かせ、それから黄沙を掻きまぜて灰のような煙を立てた。その風に掻きまぜられた沙《すな》の中から髑髏《どくろ》や白骨が覗いていることがあった。しかし、才を恃《たの》み物に傲《おご》って、鬼神を信ぜず、祠《やしろ》を焼き、神像を水に沈めなどするので、狂士を以て目せられている大異には、そんなことはすこしも神経に触らなかった。
ただ大異の困ったのは、目的地がまだなかなかこないのに日が暮れかかって、宿を取るような人家のないことであった。大異は普通の人のようにあわてはしないが、寒い露の中で寝ることは苦しいので、どんな小家の中でも好い、また家がなければ野祠《のやしろ》の中でも好いから、一泊して明日ゆっくり往こうかと思い思い、眼を彼方此方へやっていた。
森があり、丘があり、遥かの地平線には遠山の畝《うね》りがあったが、家屋の屋根らしい物は見当らなかった。大異はそれでももしや何かが見つかりはしないかと思って、注意を止めなかった。薄い金茶色をして燃えていた陽の光がかすれて風の音がしなくなっていた。大異は西の方を見た。中の黒い緑の樺色《かばいろ》をした靄のような
前へ
次へ
全19ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング