のまま水の中へ走り込んで、全身をずぶ濡れにしながらやっと前方《むこう》の岸へあがった。
 怪しい者たちは川の手前で罵り叫ぶだけで、水を渡ってくるらしい形勢がなかった。大異はそれでも走るのを止めなかった。二三町も往ったところで、諠譁《さわぎ》の声がますます遠くなったので、やっと立ち停まって背後の方を見た。怪しい者たちの姿はもう見えなかった。
 月が不意に入って四辺《あたり》が急に真暗になってしまった。大異は驚いて歩いた。そこには深い深い坑《あな》があった。大異の体はその中へ堕ちてしまった。
 冷たい厭な物が骨にまで浸みたように思って大異は我に返った。そして、眼を開けて四辺を見ようとした。小沙《こずな》のような物が入っていて開けるのが痛かった。それでも強いて耐えて開けたところで、数個の恐ろしい者に取り囲まれていた。額の左右に角のある赤い髪の者、青い髪をして翼の生えた者、鳥の喙《くちばし》のような口をして※[#「けものへん+僚のつくり」、264−2]牙《きば》の生えた者、牛のような顔をした者、それらは皆|藍※[#「靜のへん+定」、第4水準2−91−94]《あいいろ》の体をして、口から火のよう
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