た。大異は足よりも心の方がさきになって往った。
 人びとの面白そうに話す声が聞えてきた。大異はもうその人びとといっしょになったように思って、とかとかその側へ寄って往った。そして、大異はそこでまた恐ろしいものを見た。それは頭のない者や、頭があれば手の一本か足の一本かがないような者ばかりが集まっているところであった。大異はまた厭なものを見たと思ったので、そのままその傍をそれて走った。
 背後の方から怒り罵る声が聞こえてきた。
「そいつを逃がすな、つかまえろ」
「俺達が飲んでいる所へ、やってくるとは大胆な奴じゃ、つかまえて脯※[#「裁」の「衣」に代えて「肉」、263−2]《しおから》にしろ」
「つかまえろ、逃がすな、俺達の邪魔をした奴じゃ」
 背後からばらばらと飛んでくる物があった。それは人の骨のような物もあれば、牛の糞のような物もあった。大異は走りながらちらと背後に眼をやった。自分の物であろう片手に頭を持った頭のない者が、前にたって追っかけてきていた。
 大異は一生懸命になって走った。小さな川の流れがすぐ前にきた。水は月の光を受けてちらちらと光っていた。大異は橋などを尋ねる暇がないので、そ
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