思いだして、自分は今こんなに栄達しているが、渠《かれ》はまだ官途につまずいていて昇進しないから、一つ引きたててやらなくてはならないと思って、翌朝|上疏《じょうそ》して王を諫議大夫に推薦し、そこで天子の諭旨を奉じて、たちどころに引きあげて用いた。また郭太僕《かくたいぼく》がかつて自分をにらみつけたことを思いだして、そこで、呂給諫《ろきゅうかん》、及び侍御の陳昌たちを呼んで謀《はかりごと》を授けたが、翌日になると郭太僕を弾劾した上書が彼方此方から出てきた。曾はそこで天子の旨を奉じて郭太僕の官職を削った。そして恩も怨みも返してしまって、頗る快い気もちであった。
 ある時郊外を通っていると、酔っぱらいが来て車に突きあたった。そこで人をやって縛って京兆尹《けいちょういん》に渡した。京兆尹は獄卒に命じて杖で敲《たた》いて殺さした。付近の人びとは皆勢いに畏れて上等の産物を献上した。それから曾は非常に富裕になった。
 間もなく嫋嫋と仙仙が前後してなくなった。曾は朝夕二人のことを追想していたが、不意に憶いだしたことがあった。それは昔東隣の女を見て美しかったので、いつも妾にしたいと思ったが、財力が弱くてお
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