家へ帰ったが、そこは旧《もと》の自分の住宅でなかった。絵を画いた棟、彫刻をほどこした榱《たるき》、それは壮麗の極を窮めたものであった。曾も自分で何のためににわかにこんな身分になったかということが解らなかった。そして、髯をひねりながら小さな声で人を呼ぶと、その返事が雷のように高く響いた。
俄かに公卿から海から獲れた珍しい物を贈ってきた。傴僂《せむし》のように体を屈めてむやみにお辞儀をする者が家の中に一ぱいになった。参朝すると六卿がうやまいあわてて、※[#「尸+徙」、第4水準2−8−18]《はきもの》をあべこべに穿《は》いて出て迎えた。侍郎《じろう》の人達とはちょっと挨拶して話をした。そして、それ以下の者には頷いてみせるのみであった。
晋国の巡撫から十人の女の楽人を餽《おく》ってきた。それは皆美しい女であったが、そのうちでも嫋嫋《じょうじょう》という女と仙仙という女がわけて美しかった。二人はもっとも曾に寵愛せられた。曾はもう衣冠束帯して朝廷にも往かずに、毎日|酒宴《さかもり》を催していた。ある日曾は、自分が賤しかった時、村の紳縉王子良《しんしんおうしりょう》という者の世話になったことを
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