入って雨を避けた。寺の中には一人の老僧がいたが、目の奥深い鼻の高い僧で、蒲団の上に坐ったなりに傲慢な顔をして礼もしなかった。一行は手をあげて礼をして、榻《だい》にあがってめいめいに話したが、皆曾が宰相になれると言われたことを祝った。曾の心はひどく高ぶって、仲間に指をさして言った。
「僕が宰相になったなら、張兄を南方の巡撫にし、中表《いとこ》を参軍にしよう、我家《うち》の年よりの僕《げなん》は小千把《しょうせんは》になるさ、僕の望みもそれで足れりだ」
一座は大笑いをした。俄かにざあざあと降る雨の音が聞えてきた。曾はくたびれたので榻《ねだい》の間に寝た。二人の使者が天子の手ずから書いた詔《みことのり》を持ってきたが、それには曾太師を召して国計を決すとしてあった。曾は得意になって大急ぎで入朝した。
天子は曾に席をすすめさして、温かみのある言葉で何かとおたずねになったが、やや暫くして、曾に三|品《ほん》以下の官は、意のままに任免することをお許しになり、宰相の着ける蟒衣《ぼうい》と玉帯《ぎょくたい》に添えて名馬をくだされた。曾はそこで蟒衣を被《き》、玉帯を着け、お辞儀をして天子の前をさがって
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