うとう秀才の首を斬り、衣服《きもの》を嚢に入れて取って往った。曾は夜具の中に円くなって隠れ、息を殺していたが、盗賊が往ってしまったので、そこで大声をあげながら本妻の室へ奔《はし》って往った。本妻はひどく驚いて、泣きながらいっしょに秀才の室へ往ってしらべた。そして、とうとう妾が奸夫に良人を殺さしたものだという疑いが起ったので、それを訴えた。刑吏は曾を捕えて厳しく訊問した後に、とうとう極刑を以て、処分することになった。それは手足を切りおとし、次に吭《くび》を斬って死刑に処するのであった。曾は執《とら》えられて刑場へ往ったが、胸の中には無実の罪で殺されるという怒りが一ぱいになっていた。曾は刑場に往くのをこばんで無実であることを言いはったが、心では九幽十八獄にもこんな無道理なことはないと思うて、悲しみと怒りで泣き叫ぼうとしたところで、仲間の呼ぶ声が聞えてきた。
「おい、君うなされてるようだが」
曾はそこでからりと夢が寤《さ》めた。見ると老僧はなお座の上に座禅を組んだままであった。仲間の者は口々に言った。
「日が暮れてひもじいのに、いつまでぐうぐう睡っているのだ」
曾はそこでしおれた容《さま
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