曾はそれから毎日乞食の子に随いて、物をもらいに出かけて往ったが、いつも腹が空いていて腹一ぱいに物を喫《く》うことができなかった。そして破れた衣服を着て、骨を刺すような風にいつも吹かれていた。
 十四歳になって両親は顧秀才《こしゅうさい》の所へ売って妾にした。衣食はそこでほぼ足るようになったが、本妻が気があらくて、毎日その鞭の下で為事《しごと》をした。本妻は鉄を赤く焼いてからその乳のあたりに烙《やきばん》をしたが、しあわせなことには秀才は心がやさしくて可愛がってくれたので、やや自分で慰めることができた。
 東隣に悪少年があって、ある夜垣を踰《こ》えて入ってきた。そこで自分のことを考えて、自分は前世で罪を犯して地獄の責め苦を被《こうむ》っているから、今またこんなことをしてはならないと思ったので、大声をあげて人を呼んだ。秀才と本妻が起きたので、悪少年はやっと逃げて往った。
 それから間もない時のことである。ある夜秀才は曾を自分の室《へや》へ泊めた。二人の話がはずんできたので、曾は自分の身のうえのことを訴えていると、不意に大声がして室の戸を荒あらしく開け、二人の盗賊が刃を持って入ってきて、と
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