らわた》をかけて泣き叫んでいたが、その声はいかにも悲しそうで、心も目もその惨酷さに耐えられなかった。鬼は曾を促して、山へ登らそうとした。曾は泣き叫んで身を縮めて動かなかった。鬼は毒錐《どくすい》で曾の脳天を突き刺した。曾は痛みを負いながらもまた憐れみを乞うた。鬼は怒って曾を捉えて起ち、空に向って力まかせにほうり投げた。曾は自分の体が雲の上に浮んだように感ずるまもなく、目が眩《くら》んで真逆さまに落ちた。刃は胸に突き通って痛さは言葉につくすことができなかった。そのうちに時間が経つと体の重みで刃の孔がだんだん闊《ひろ》くなって、たちまち脱け落ちて、手足は尺取虫のように屈んでしまった。
 鬼はまた曾をおいたてて往って王を見た。王は曾が平生爵位を売り、名を鬻《ひさ》ぎ、法を枉《ま》げ、権勢を以て人の財産を奪いなどして得た所の金銭は幾何《いくばく》であるかということを詮議さした。そこで髯の長い人がそろばんを持って計算して言った。
「三百二十一万でございます」
 王は言った。
「彼がこれまで積んできた位、また飲ますがいいだろう」
 間もなく金銭を取って陸上にうずたかく積んだが、それは丘陵のようであ
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