それについて叫んだが、その声は雷のようであった。そこで一疋の巨きな鬼が来て曾をひっつかんで階下へ往った。そこに大きな鼎《かなえ》があって、高さが七尺ばかり、四囲《ぐるり》に炭火を燃やして、その足を真紅に焼いてあった。曾はおそろしくて哀れみを乞うて泣いた。逃げようとしても逃げることはできなかった。鬼は左の手をもって髪をつかみ、右の手で踝《くるぶし》を握って、鼎の中へ投げこんだ。曾の物のかたまりのような小さな体は、油の波の中に浮き沈みした。皮も肉も焦《や》けただれて、痛みが心にこたえた。沸きたった油は口に入って、肺腑を烹《に》られるようであった。一思いに死のうと思っても、どうしても死ぬることができなかった。ほぼ食事をする位の時間が経つと、鬼は巨きな叉《さすまた》で曾を取り出して、また堂の下へ置いた。王はまた書類をしらべて怒って言った。
「勢いに倚《よ》って人を凌いだものだ、刀山《とうざん》の獄を受けさすがいい」
鬼はまた曾をひッつかんで往った。そこに一つの山があって、巌石が壁のように切りたって聳え、それに鋭い刃を密生した筍のように植えてあった。そこにはもう数人の者が腹を突き刺され、腸《は
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