向き合ふやうにその青い地に何か魚の絵を置いたメリンスの蒲団の上に坐つた。
二人の手と手は火鉢の上で絡みあつた。
哲郎は女の顔を見るのがまぶしかつた。
「どうです、」
哲郎は笑つた。彼はそれ以外にいふ詞がなかつた。
女も笑つてゐた。女の眼は絡みあつてゐる哲郎の手元へと来た。
「暖いわ、ね、」
「会があつて今まで飲んでたから、暖かいでせう、」
「お酒をおあがりになつて、」
「すこし飲むんです、」
「ぢや、お酒をあげませうか、」
「ありますか、」
哲郎は形式だけでも酒があると話がしよいと思つた。
「すこしありますよ、私はいたゞかないから、貰つたのをそのまゝにしてありますよ、」
女は顔をあげて右の鴨居の方を見た。其処には小さな棚があつて、ボール箱もあれば木箱も見えてゐた。
「味はどうですか、草の色をした酒ですよ、」
女はさういつて起たうとするので、哲郎は絡んでゐた指を解いた。と、女は起つて棚の黄ろなボール箱に手をやらうとしたが達かなかつた。
「取らう、飲む者が取りませう、」
哲郎は起つて女と並んだ時、爪立ちを止めた女の体がもつたりと凭れて来た。哲郎はその女の体を支へながらボール
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