一緒に帰つて来た六七人の者がばらばらになつて帰りかけた時、随筆家として世間に知られてゐる親い友人から呼び止められた。随筆家の友人は、土産にと持つて来た柿の籠を一緒に持つて往つて置いてくれといつた。
(おい、けしからんことをいふなよ、)
 といつて笑つたことを思ひだした。随筆家の友人と話題を多く持つてゐる若い新聞記者とは、糠雨のちらちら降る中を外の方へと歩いていつた姿も浮んで来た。その二人は前晩泊つた温泉町から電報を打つて停車場もよりの家へ某事を頼んであるので、その家へ往つて夜を明かし、自分の家へは翌朝の汽車で帰つたやうな顔をして帰るといふことになつてゐた。彼は二人を見送つてから車を雇ひ、随筆家の友人の柿も一緒に積んで大塚の家へ帰つたことを思ひ出した。
 其処へ十八九に見える姿の好い女給が勘定書を持つて来た。彼はインバの衣兜から蟇口を出してその金を払ふとゝもにすぐ腰をあげた。
 哲郎は電車に揺られてうつとりとなりながら女のことを考へてゐた。その女の中には彼の洋画家の細君であるといふ女の、想像になつた長い骨を青白くゝるんだ肉体も浮んでゐた。
 一二年前に横浜の怪しい家で知つた獨逸人の混血児
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