度も申しあげることはできないです」
そのうちに陽が西にまわった。陳は赦されるのを待ちかねていた。と、たちまちかの女が息せわしくはしってきて言った。
「大変です、おしゃべりさんが、王妃に申しあげたものだから、王妃は巾をなげつけて、気ちがいの下人とお怒りになっておられます、もうどうすることもできないです」
陳は大いに驚いた。顔の色は灰のようになってひざまずいてどうしたなら罪を免れることができるだろうかと言って教えを請うた。と、たちまち人声ががやがやとして聞えてきた。女は手をふってそっと逃げて往った。三四人の者が索を持ってさわがしく入ってきた。そのうちの一人がじっと陳を見て言った。
「何人《だれ》かと思ったら陳さんではありませんか」
そこで索を持っている者を止めて、
「まあ、待ってください、王妃に申しあげてまいります」
と言って、引返して走って往ったが、すぐ帰ってきて言った。
「王妃が陳さんのいらっしゃるのをお待ち申しておられます」
陳はわなわな顫えながら従いて往った。たくさんの門をすぎて一つの宮殿へ往った。碧《みどり》の箔《すだれ》を銀の鉤《かぎ》でかけた所に美しい女がいた。それ
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