が王妃であった。陳を伴れて往った女は、
「陳さんを召しつれました」
 と言った。すると光りかがやく衣裳をつけていた王妃が目をあげた。陳は地べたに額をすりつけて言った。
「私は旅をしておる者でございます、どうか生命をお助けください」
 王妃は急いで起ってきて、陳の手を執って上にあげて言った。
「私は、あなたがなかったなら、今日のないものです、婢達は何も知らないから、大事のお客様をお苦しめして、申しわけがありません」
 そこで華やかな酒宴の席を設けて、玉をちりばめた杯に酒を酌んで陳をもてなした。陳はその故が解らないので茫然としていた。王妃は言った。
「再生の御恩に対して、他に御恩返しをすることができないのを残念に思いますが、ただ女《むすめ》が詩を書いていただいて、あなたに可愛がっていただきましたから、天縁であろうと思います、今晩、あなたのお傍にさしあげることにいたします」
 陳は思いもよらない、そして、意味の解らない幸福にぶっつかって、心がうっとりして落ちつかなかった。
 日がはや暮れてしまった。一人の侍女が来て言った。
「公主はもうお準備《したく》ができました」
 侍女は陳を案内して式場
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