へ往った。と、たちまち笙や笛の音がにぎやかに聞えだした。階上には一めんに花毛氈《はなもうせん》を敷いて、室の中も門口も、垣根も便所も、皆燈籠を点《つ》けてあった。三四十人の麗しい女が公主を扶けて入ってきてかわるがわる拝《おじぎ》をした。麝香《じゃこう》の気が殿上から殿外に溢れた。
そこで陳と公主は手を引きあって幃《しんしつ》に入った。陳は言った。
「私は旅の者で、まだ一度もお目みえしたこともないうえに、大切な巾を汚して、罪をのがれることができたなら幸いだと思っていたのです、結婚を許していただくとは思いもよらないことです」
公主が言った。
「私の母は、湖君《こくん》の王妃でございます、すなわち江陽王《こうようおう》の女でございます。昨年里がえりをする途で、湖の上で游んでいて、流矢に中《あた》って、あなたによって脱れることができました、そのうえに金創の薬までいただきました、一門は皆あなたの御恩を感謝しております、どうか人間でないということで疑わないようにしてくださいまし、私は龍君に従うて長生の術を授けられております、あなたと生涯を共にしましょう」
陳はそこで公主も王妃も神人であるとい
前へ
次へ
全18ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング