陳は色を失った。
「どうしたら赦《ゆる》していただけましょう」
女は言った。
「宮殿の中へ忍びこんだ罪ばかりでものがれることができないですが、あなたは儒冠《じゅかん》の書生さんで、おとなしい方だから、そればかりなら、どうにかしてお助けすることができたのですが、わざわざこんないたずらをしては、どうすることもできないです」
女は巾を持ってあたふたと往ってしまった。陳は心がふるえて肌に粟ができた。彼は自分の体に翅《つばさ》のないことを恨んだ。彼は殺されるのを待つより他にしかたがなかった。
やや暫くして初めの女がまた来て、そっと言った。
「お喜びなさい、あなたは命が助かるかも解らないです、公主は巾を三遍も四遍もくりかえして御覧になって、お笑い遊ばされて、べつにお怒りになった御容子《ごようす》も見えないですから、ついすると赦していただくことができますよ、すこし辛抱しているがいいのです、逃げ出したりなんかしてはいけないです、それで見つかろうものなら今度は赦してもらうことができないですから」
日がもう入りかけていた。陳は女の往った後でまだ凶とも吉とも定まらない自分の運命を考えて苦しんだが、
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