そこに鞦韆《ぶらんこ》の架《たな》があったが、それは雲と同じ高さのもので、その索《なわ》はひっそりと垂れていた。陳はそこで此所《ここ》は閨閣《おおおく》に近い所ではないかと思った。陳はおそろしくなったので前《さき》へ往かなかった。
 不意に馬の跫音が門の方に聞えてきた。女の笑声も微かに聞えてきた。陳は従僕とそっと花苑の中へ隠れた。間もなく女の笑声がだんだん近づいてきた。その時一人の女の声が言った。
「今日の猟は面白くなかった、鳥が獲れなかったから」
 するとまた一人の女の声が言った。
「公主が雁をお獲りあそばさなかったなら、何も獲れないで、馬を労するだけでしたが」
 間もなく紅い装束した数人の女が一人の女郎《むすめ》に従《つ》いてきて、亭に入って腰をかけた。女郎は短い袖の軍《いくさ》装束《しょうぞく》で年は十四五であろう、おさげにした髪は霧のかかったようで、細そりした腰は風にもたえないように見えた。それは花でもくらべものにならない美しさであった。傍の女達は茶をくみ香を焚いたが、遠くから見ると錦をつかみかさねたように輝いて見えた。暫くして女郎は起って階段をおりて往った。一人の女が言った。
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