といってたが、やっぱり人間《じんかん》にいるのかね。」
 周は同窓の友が成とまちがえていることを知ったのでそのわけを話した。同窓の友は驚いていった。
「じゃ、僕が今|遇《あ》ったのだ。僕は君とばっかり思ってた。いってから間がないから、まだ遠くへはいかないだろう。」
 周は不思議でたまらなかった。周はいった。
「そうかなあ。じゃ僕も遇っている。自分で自分の面《かお》のわからないはずはないがなあ。」
 そこへ下男がおっついて来た。周は馬を飛ばして彼の道士のいった方へといったが影も形も見えなかった。そこは一望寥闊《いちぼうりょうかつ》としたところであった。周は進退に窮してしまった。帰ろうとしても帰る家はなかった。周はとうとう意を決して成をどこまでも追っていくことにしたが、そのあたりは険岨《けんそ》で馬に騎《の》っていくことができないので、馬を下男にわたして帰し、独りになって、うねりくねった山路を越えていった。
 遥かに見ると一|僮子《どうし》の坐っている所があった。周は上清宮のある所を聞きたいので急いでその側《そば》へいって、
「これから上清宮のある所へは、何里位あるかね。僕は成道士を尋ねて
前へ 次へ
全17ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング