いく者だが。」
といって故《わけ》を話した。すると僮子は、
「私は成道士の弟子でございます。」
といって、代って荷物を荷い、路案内をしてくれたが、星飯露宿《せいはんろしゅく》、はるばるといって三日目になってやっとゆき着いた。そこは人間《じんかん》にあるいわゆる上清宮ではなかった。季節は十月の中頃であるのに、花が路に咲き乱れて初冬とは思われなかった。
僮子が入っていって、
「お客さまがお出でになりました。」
といった。すると遽《にわか》に成が出て来て、己《おのれ》の形になっている周の手を執《と》って内へ入り、酒を出して話した。
そこには綺麗《きれい》な羽のめずらしい禽《とり》がいて、人に馴《な》れていて人が傍へいっても驚かなかった。その鳴く声は笛の音のようであったが、時おり座上《ざしき》へ入って来て鳴いた。周はひどくふしぎに思いながらも若い細君のことをはじめ世の中のことが心に浮んで来て、いつまでもそこにいようというような意《こころ》はなかった。
そこには二枚の蒲団《ふとん》があった。二人はそれを曳《ひ》きよせて並んで坐っていたが、夜がふけていくに従って心がすっかり静まった。そ
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