の時周はうとうとしたが、それと共に自分と成とが位置を易《か》えたような気がした。周はふしぎに思って頷《あご》をなでてみた。そこには髭の多い故《もと》の自分の頷があった。周は安心した。
朝になって周は帰りたくなったので成にいった。成は固く留《と》めて返さなかった。三日すぎてから成がいった。
「今晩はすこし寝るがいいだろう。明日は早く君を送ろう。」
周は成の言葉に従って睡《ねむ》ったところで、成の声がした。
「仕度《したく》ができたよ。」
そこで周は起きて旅装を整えて成について出発した。周は成のいった道をゆかず他の道をいった。二人は暗い中をすこしいったかと思うと、もう故郷の村であった。成は路ばたに坐って周に向い、
「ひとりで帰るがいい。」
といった。周は成を伴れていきたかったが、強《し》いてもいえないので独りで家の門を叩《たた》いた。返事をする者もなければ起きて来る者もなかった。周はそこで牆《かき》を越えて入ろうと思った。と、自分の体が木の葉の飛ぶようになって一躍《ひととび》に牆を越えることができた。垣はまだ二つ三つあった。周はその垣も越えて自分の寝室の前へといった。寝室の中には燈
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