と寤《さと》った。そこで気がおちついたので居間へ入ろうと思っていくと、周の弟はその貌《かおかたち》が異っているので通さなかった。周もまた自分で自分を証明することができないので、馬に乗り下男を伴《つ》れて成を尋ねていった。
数日にして周は労山に入った。すると騎《の》っていた馬の足が疾《はや》くなって下男は随《つ》いていくことができなかった。馬は飛ぶようにいってやがて一本の樹の下に止った。そこには黄巾※[#「敞/毛」、第3水準1−86−46]服の道士がたくさん往来していた。そのうちの一道士が周に目をもって来た。そこで周は、
「成道士のいる所はどこでしようか。」
といって問うた。道土は笑っていった。
「成道士から聞いている。上清宮にいるようだよ。」
道士はそう言うなりすぐに離れていった。周はそれを見送った。その道士はすぐその先で向うから来た道士と何か二言三言《ふたことみこと》交えてからいってしまった。初めの道士と言葉を交えていた道士がやっと近くに来た。それは同窓の友の一人であった。同窓の友は周を見て愕《おどろ》いていった。
「数年逢わなかったね。人に聞くと、君は名山に入って道を学んでる
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