二人は寝台を並べて寝たが、夢に周は成が裸になって自分の胸の上に乗っかったので息ができないようになった。周はふしぎに思って、
「何をするのだ。」
 といったが成はわざと返事をしなかった。と、周の眼が寤《さ》めた。そこで周は、
「おい、成君。」
 と呼んだが返事がない。周は坐って手さぐりに索《さぐ》ってみたが、どこへいったのか沓《よう》としてわからなかった。暫くしてから周は始めて自分が成の寝台で寝ていることに気がついた。周は駭《おどろ》いていった。
「そんなに酔ってもいなかったのに、なぜこんなに顛倒《てんとう》したのだろう。」
 そこで家の者を呼んだ。家の者が来て火を点《つ》けた。周の容貌は変じて成となっていた。周はもと髭《ひげ》が多かった。周は手をやって頷《あご》をなでてみた。そこには幾莖《すうほん》の髭が踈《まば》らに生えているのみであった。周は鏡を取って自分で顔を照してみた。そこには成の顔があって自分の顔はなかった。
「おや、成の顔がある。俺はぜんたいどこへいったのだろう。」
 周はあきれて鏡を見ていたが、まもなくこれは成が幻術を以て自分を隠遁《いんとん》させようとしているためだろう
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