は飢餓のために起つことができないようになっていた。法院の長官は怒って典獄を打ち殺させようとした。黄吏部は怖《おそ》れて村役人に数千金をおくったので、それでいいかげんなことになり、村役人は法を枉《ま》げた典獄ばかりを流刑にした。そして周は放たれて還《かえ》って来たが、それからはますます成と肝胆《かんたん》を照らした。
 成は周の裁判がすんでから、世の中に対して持っていた望みが灰のようにこなごなになったので、周を伴《つ》れて隠遁《いんとん》しようと思って、ある日、それを周にすすめた。周は若い後妻の愛に溺《おぼ》れて、成のいうことを人情に迂《うと》いつまらないことだといって一笑に付した。成はそれ以上何も言わなかったが、その意《こころ》はきちんときまっていた。
 成はそれから還っていったが数日経っても姿を見せなかった、周は使を成の家へやった。成の家には成はいずに家の者は周の所にいることとばかり思っていたといった。そこで始めて皆が疑いだしたが、周は成の心の異っていたことを知っているので、人をやって成のいそうな寺や山を偏《あまね》く物色《ぶっしょく》さすと共に、時どき金や帛《きぬ》をその子に恤《め
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