要はない。」
そこで成は都に向って出発した。周の弟が餞別《せんべつ》しようと思っていってみると、成はもう出発してかなり時間が経っていた。
やがて成は都に着いたが控《うったえ》をする手がかりがない。どうしたならいいだろうかと思っていると、天子が御猟《ごりょう》にいかれるという噂が伝わって来た。成は木市《きば》の材木の中に隠れていて、天子の車駕《しゃが》の通り過ぎるのを待ちうけ直訴した。
成の直訴はおとりあげになって、車駕を犯した成自身の身もそれぞれの手続の後にさげられ、上奏を経て周の罪を再審することになったが、その間が十ヵ月あまりもかかったので、周はすでに無実の罪に服して辟《つみ》につけられることになっていた。ところで天子の御批《ぎょひ》がくだったので、法院ではひどく駭《おどろ》いて、ふたたび罪をしらべなおすことになった。黄吏部もそれには駭いて周を殺そうとした。黄吏部は典獄に賄賂《わいろ》をおくって周に飲食をさせないようにした。そこで典獄は周の弟が食物を持って来ても入れることを許さなかった。それがために成が法院へいって周の無実の罪であることをいって、再審を始めてもらったときには、周
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