が醒《さ》めた。自分は寝台の上に臥《ね》ていたのであった。周はびっくりして、
「つじつまの合わない夢を見たのだ。驚いたよ。」
といった。すると寝台を並べて寝ていた成が笑っていった。
「君は夢を真箇《まこと》にし、真箇を夢にしているのだ。」
周は愕《おどろ》いてそのわけを問うた。成は剣を出して周に見せた。それにはなまなまと血がついていた。周は驚き懼《おそ》れて気絶しそうにしたが、やがて、それは成の法術で幻《まぼろし》を見せたではあるまいかと疑いだした。成は周の意を知ったので、
「嘘《うそ》か実《まこと》か見て来たらいいだろう。」
といって、周に旅装をさして送って帰った。そのうちに故郷の入口になると、
「ゆうべ、剣に倚《よ》って待っていたのはここだよ。僕はけがれたものを見るのが厭だから、ここで君の還るのを待とう。もし午《ひる》すぎになって来なかったなら、僕はいってしまうよ。」
といった。周は成に離れて家へいった。門の戸がしんとしていて空屋のようになっていた。そこで周は弟の家へ入った。弟は兄を見て涙を堕《おと》していった。
「兄さんがいなくなった後で、盗賊が入って、嫂《ねえ》さんを殺
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