して、腸《はらわた》を刳《えぐ》って逃げたのですが、じつに惨酷《ざんこく》な殺しかたでしたよ。だが、それがまだ捕《つかま》らないです。」
周ははじめて夢が醒《さ》めたように思った。そこで周は弟に事情を話して、もう詮議《せんぎ》することをやめるがいいといった。弟はびっくりして暫くは眼をみはっていた。周はそこで子供のことを聞いた。弟は老媼《ばあや》にいいつけて子供を抱いて来さした。周はそれを見て、
「この嬰児《あかんぼ》は、祖先の血統を伝えさすものだがら、お前がよく見てやってくれ。私はこれから世の中をすてるのだから。」
といってそのまま起って出ていった。弟は泣きながら追いかけて挽《ひ》きとめようとしたが、周は笑いながら後を顧みずにいった。そして郊外に出て、そこに待っていた成と一緒になって歩きだしたが、遥かに遠くへいってからふりかえって、
「物事を耐え忍ぶことが、最も楽しいことだよ。」
といった。弟はそこでそれに応《こた》えようとしたところで、成が闊《ひろ》い袖をあげたが、そのまま二人の姿は見えなくなった。弟は悵然《ちょうぜん》としてそこに立ちつくしていたが、しかたなしに泣きながら家へ
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