の銭《せん》という家の女《むすめ》のことを思いだした。その女はある夜不意にいなくなったので、銭家では大騒ぎして人をやって探さしたが、どうしても見つからなかった。そこで銭家では、もし女を見つけてきた者があれば、財産の一半を分けたうえに、女をやろうと言いだしたが、それでも女の行方が判らなかった。
「では、銭家の者か」
「そうでございます、どうか助けて、私を家へ送ってくださいますなら、どんなお礼でもいたします」
女は涙を流して言った。
「もう、心配することはない、皆連れて往ってあげる」
五六人の髭の長い老人が入ってきた。その老人の中に一人白い衣服《きもの》を着た老人が混っていた。その老人が前へ出て李生に拝《おじぎ》をした。
「私達は虚星《きょせい》の精でございます、もとここに住んでおりましたが、この猿どもがやってきて追い出されましたので、どうかしてそれを取り戻したいと思っているところへ、あなたがおいでくださいまして、斃してくださいましたので、今日からまたここへ帰ることができます、まことにありがとうございます、これはそのお礼でございます」
白い衣服の老人は、袂から黄金や海珠《かいしゅ》の
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