申陽洞記
田中貢太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)隴西《ろうせい》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)ある日|平生《いつも》のように
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「ほっ」に傍点]
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元の天暦年間のことであった。隴西《ろうせい》に李生《りせい》という若い男があった。名は徳逢《とくほう》、年は二十五、剛胆な生れで、馬に騎《の》り、弓を射るのが得意であったが生産を事としないので、郷党の排斥を受けて、何人《たれ》も相手になってくれる者がない。しかたなしに父の友達で桂州の監郡をしている者があるので、その人に依って身を立てようと思って、はるばると桂州へ往ってみると、折角頼みにしていた人が歿《な》くなっていて、世話になることができない。故郷へ帰ろうにも旅費がないので困ったが、その辺は山国で有名な山が多いので、李生はその山へ眼を著《つ》けて、猟をして自活をすることに定め、毎日弓を持って山の中へ出かけて往った。
ある日|平生《いつも》のように弓を持って山へ往ったところで、一匹の鹿が林の中から出てきた。李
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