なっておられる」
 番兵はこう言って李生の顔を見た。そこで李生は大王の方へ向って拝《おじぎ》をしてから進んで往った。
「お創を拝見いたします」
 大王は返事の代りに唸り声をたてた。傍にいた女の一人が傍へ寄って創を捲いている布をそろそろと解いた。毛もくじゃらの臂に血の生々した創があった。李生は近々と寄って往ってその創のまわりに指を触れた。
「私の持っておる薬は、仙薬でございますから、病をなおすばかりでなく、年も取らなければ死にもいたしません、こんな創ぐらいは、一度に癒ってしまいます」
 大王はまた唸り声を立てた。李生は腰の皮袋をはずしてその中から石綿に浸した薬液を取りだし、その小部分を撮《つま》みとって大王の一方の手へ乗せた。
「これをさしあげます」
 大王はいきなりそれを口へ持って往った。李生はほっ[#「ほっ」に傍点]としたが、それでも部下の者がどんなことをするかも判らないので気を許さなかった。
 いつの間に集まってきたのか、三十個ばかりの部下の者が、目白押しに入口の処へ集まって、李生のくるのを待ち兼ねているようにしていた。李生は気味悪く思いながら寄って往った。
「私にも霊薬をいただか
前へ 次へ
全12ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング