と浮んできた。
「私は好い薬をもっております、手創が治るばかしでなしに、それを飲むと、不老不死が得られます」
「そうか、それは天が神医を与えてくだされたのじゃ、大王申陽侯が昨日遊びに往かれて、流矢に当って苦しんでおられる、お前の薬を頼みたい、こっちへきてくれ」
 その番兵は李生を連れて石室の中へ入って往った。石室の中にも昨夜古廟で見た姿の者が、そこにもここにも眼を光らして腰を掛けていた。
「ここで、控えておってくれ、大王に伺うてくる」
 番兵は奥の方へ入って往った。李生はそこにあった牀《こしかけ》に腰をかけて待っていた。
 間もなく番兵が引返してきた。
「大王が非常に悦《よろこ》んでおられる、早く往って療治をしてあげてくれ」
 李生は番兵に随いて往った。そこに二重門があって、それを入ると錦繍の帷《とばり》をした室《へや》があって、その真中に石の榻《ねだい》を据え、その上に大きな老猿が仰向けに寝てうんうんと唸っていた。榻の傍には三人の綺麗な女が腰をかけていた。
「あれにいらるるが大王であらせられる、早くお前の持っておる霊薬を差しあげてくれ、お前のことをお聞きになって、大王も非常にお喜びに
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