、近藤六郎兵衛がいたが、酒宴《さかもり》になったところで、伊右衛門の朋輩|今井仁右衛門《いまいじんえもん》、水谷庄右衛門《みずたにしょうえもん》、志津女久左衛門《しずめきゅうざえもん》の三人が押しかけて来た。そして、酒の座が乱れかけたところで、行灯《あんどん》の傍《そば》から一尺位の赤い蛇が出て来た。伊右衛門は驚いて火箸《ひばし》で庭へ刎《は》ねおとしたが、いつの間にかまたあがって来て行灯の傍を這《は》うた。伊右衛門はまたそれを火箸に挟んで裏の藪《やぶ》へ持って往って捨てたが、朝ぼらけになって皆が帰りかけたところで、天井からまた赤い蛇が落ちて来た。伊右衛門は何だかお岩の怨念《おんねん》のような気がして気もちが悪かった。伊右衛門はやけにその蛇の胴中をむずと掴《つか》んで裏の藪へ持って往って捨てた。
物縫い奉公に住み込んだお岩は、伊右衛門のことを思い出さないこともないが、それでも心は軽かった。某日《あるひ》お岩が庖厨《かって》の庭にいると、煙草屋《たばこや》の茂助《もすけ》と云う刻み煙草を売る男が入って来た。この茂助はお岩の家へも商いに来ていたのでお岩とも親しかった。
「田宮のお嬢様でご
前へ
次へ
全18ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング