て、二三年奉公に出ておれば、あなたはまだ年も壮いし、わたしが引受けて、好い男を夫に持たしてあげる」
お岩は喜兵衛の詞《ことば》に云いくるめられて、伊右衛門の持ち出して往った衣服《きもの》を返してもらうことを条件にして別れることになった。伊右衛門は初めからそのつもりで質にも入れずに知人の家に隠してあったお岩の衣服を持って来て、うまうまとお岩を離縁したのであった。
お岩はそこで喜兵衛に口を利いてもらって、四谷|塩町《しおちょう》二丁目にいる紙売の又兵衛《またべえ》と云うのを請人に頼んで、三番町《さんばんちょう》の小身な御家人《ごけにん》の家へ物縫い奉公に住み込んだ。そうしてお岩を田宮家から出した喜兵衛は、早速お花を伊右衛門にやることにしたが、仲人なしではいけないので伊右衛門に云いつけて近藤六郎兵衛に仲人を頼ました。六郎兵衛は女房がお岩の鉄漿親《かねおや》になっているうえに、平生喜兵衛を心よからず思っているのでことわった。伊右衛門はしかたなしに秋山長右衛門の許へ往って長右衛門に頼み、七月十八日が日が佳《よ》いと云うので、その晩にお花と内輪の婚礼をした。
その婚礼の席には秋山長右衛門夫妻
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