兵衛の家へ往った。喜兵衛はすぐ出迎えて座敷へあげた。
「あなたをお呼びしたのは、伊右衛門殿のことだが、あれは見かけによらない道楽者で、博奕《ばくち》打ちの仲間へ入って、博奕は打つ、赤坂《あかさか》の勘兵衛長屋の比丘尼《びくに》狂いはする、そのうえ、このごろは、その比丘尼をうけだして、夜も昼も入り浸ってると云うことだが、だいち、博奕は御法度だから、これが御頭の耳にでも入ると、追放になることは定まってる、そうなれば、あなたは女房のことだから、夫に引きずられて路頭に迷わなくてはならない、そうなると、田宮家の御扶持切米も他人の手に執られることになる、わたしはあなたの御両親とは親しくしていたし、意見もしたいと思うが、わたしは与力で、支配同然だからすこし困る、どうか、あなたが意見をして、博奕と女狂いをよすようにしてください」
 お岩は恥かしくもあれば悲しくもあった。お岩は泣きながら恨みと愚痴を云って帰って来たが、家は閉まったままで伊右衛門は帰っていなかった。伊右衛門はその晩は喜兵衛の家にいて、隣の部屋から喜兵衛とお岩の話を聞いていたのであった。
 朝になってお岩は持仏堂の前に坐ってお題目を唱えてい
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