だしたが、他へやるには数多《たくさん》金をつけてやらなくてはいけないから、だれか金の入らない者はないかと考えた結局《あげく》、時どき己《じぶん》の家へ呼んで仕事をさしている伊右衛門が、容貌の悪い女房を嫌っていることを思いだしたので、伊右衛門を呼んで酒を出しながらそのことを話した。
「お前が引受けてくれないか、そのかわり一生お前の面倒を見てやるが」
 伊右衛門はその女に執着を持っていたから喜んだ。
「あの妖怪《ばけもの》と、どうして手を切ったら宣《よ》いのでしょう」
「それは、わけはないさ」
 喜兵衛は伊右衛門に一つの方法を教えた。伊右衛門はそれを教わってから家を外にして出歩いた。そして、手あたり次第に衣服《きもの》や道具を持ち出したのですぐ内証《ないしょ》が困って来た。お岩がしかたなしに一人置いてあった婢《げじょ》を出したので、伊右衛門の帰らない晩は一人で夜を明さなければならなかった。お岩は伊右衛門を恨むようになった。
 その時喜兵衛の家からお岩の許《もと》へ使が来て、すこし逢いたいことがあるから夜になって来てくれと云った。お岩は夕方になっても伊右衛門が帰らないので、家を閉めておいて喜
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