では嫂《あによめ》が家を出ていたことをいやしんでいたし、嫂の方でもまた臧の気の荒いことを悪んで相手にしなかった。兄弟は庭を隔てて住んでいたが、臧が時とすると凌辱することがあっても、一家の者は皆耳をふさいでいた。臧はいじめる者がないので夫と婢とにあたった。
 婢は臧の虐待にたえかねて、ある日、自分で首をつるして死んだ。婢の父親が臧を訟《うった》えた。二成は細君に代って裁判をうけて、ひどく鞭でたたかれた。そのうえ臧もかかりあいで拘えられた。大成は上下の役人に対して赦《ゆる》してもらう運動をしたが、どうしても赦されなかった。臧は指械《ゆびかせ》をせられたので指の肉がすっかり脱けてしまった。そして、役人の賄賂の貪《むさぼ》りようがひどくて、巨額の金を要求するので、二成は田を質に入れて金を貸り、いうとおりに収めて、やっと赦してもらって帰って来た。けれども債権者の催促が日ましにきびしいので、やむを得ず、すっかり良田を村の任《じん》という老人に売ってしまった。任はその田地の半分どおりが大成の譲ったものであるところから、大成にその書付を要求した。安は出かけていって任に逢った。と、任は忽ち、
「わしは、
前へ 次へ
全17ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング