珊瑚
蒲松齢
田中貢太郎訳

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)安大成《あんだいせい》
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 安大成《あんだいせい》は重慶《じゅうけい》の人であった。父は孝廉《こうれん》の科に及第した人であったが早く没くなり、弟の二成《じせい》はまだ幼かった。大成は陳《ちん》姓の家から幼《おさ》な名《な》を珊瑚《さんご》という女を娶《めと》ったが、大成の母の沈《しん》というのは、感情のねじれた冷酷な女で、珊瑚を虐待したけれども、珊瑚はすこしも怨《うら》まなかった。そして、朝あさ早く起きては身じまいをして、母の所へ挨拶にいった。
 大成がその時病気になった。母は珊瑚がみだらであるからだといって、ある朝珊瑚を責め詬《ののし》った。珊瑚は自分の室《へや》へ入って化粧をおとして母の前へいった。それを見て母はますます怒った。珊瑚は額を地に打ちつけてあやまった。大成は親孝行であった。それを見て鞭《むち》を執《と》って珊瑚を打った。それで母の気がすこし晴れてその場は収まったが、母はそれからますます珊瑚を憎んで、珊瑚が心から仕えても一言も物をいわなかった。
 大成は母が珊瑚に怒っている
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