ことを知ったので、我が家に寝ずに他所で泊って、珊瑚と夫婦の交わりを絶っていることを見せたが、それでも母の気持ちはなおらなかった。何かにつけて怒り罵るのは皆珊瑚のとばっちりであった。大成は、
「妻《かない》をもらうのは、舅姑《りょうしん》につかえさせるためなのだ。こんなことで何が妻だ。」
 といって、とうとう珊瑚を離縁して、老姨《ばあや》をつけて親里へ送らしたが、村を離れようとすると珊瑚は泣いて、
「女と生れて人の妻となることができないで、どうして両親に顔があわされよう。いっそ死ぬるがましだ。」
 といって、袖の中から剪刀《はさみ》を出して喉を突いた。老媼《ばあや》はびっくりして剪刀をもぎとったが、血は傷口から溢れ出て襟を沽《うるお》した。老媼はそれで珊瑚を大成の叔母にあたる王という家へ伴《つ》れていった。王はやもめぐらしで夫はなかった。珊瑚はとうとうそこにいることになった。
 老媼が帰って来ると大成は、この事情を隠しているようにいいつけたが、母がそれをさとりはしないかと思って恐れた。で、数日して珊瑚の傷がすこし癒《い》えかけたということを知ると、叔母の許へいって、門口で叔母に、
「叔母
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