いものをいかないのは、かわいがっていることが解かるのだよ。あの食物を送って来てめんどうを見たのは、私の嫁でなくてお前の嫁だよ。」
 大成の母は驚いていった。
「なんですって。」
「珊瑚は長いことここにいるのだよ。あの送ってくれた食物は、皆あれが夜績《よなべしごと》でのこしたものだよ。」
 大成の母はそれを聞くと涙を流していった。
「私は、嫁にあわす顔がありません。」
 姨はそこで珊瑚を呼んだ。珊瑚は涙を目に一ぱいためて出て来て、べったりと身を投げ伏してしまった。大成の母は慚《は》じてひどく自分で自分の身をせめた。
「私はなんという愚《ばか》だろう。私はなんという心だったろう。」
 姨はそれをやっとなだめた。そこで、とうとう初めのような嫁と姑の仲になり、十日あまりして一緒に帰っていった。
 良田を二成にやってしまった大成の家では、痩せた幾畝かの田地を作っていたが、たべるに足りないので、大成は筆耕をやり、珊瑚は針仕事をして、それをたのみにしていた。
 二成の方では足りないものはなかった。しかし、兄の方では助けを求めようともしなければ、弟の方でもまた世話をしようとはしなかった。そして、臧の方
前へ 次へ
全17ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング