安孝廉だ。任というのは何者だ、わしの財産を買おうとするのは。」
といってから、大成を顧みて、
「冥間《あのよ》で、お前達夫婦の孝を感心せられて、それで、わしを帰して、逢わせてくだされたのだ。」
といった。大成は涙を流していった。
「お父様に霊《みたま》がありますなら、どうか弟を救ってやってください。」
「あんな不孝な悴《せがれ》や、わがままの嫁は、惜しくはない。それよりかお前は早く家へ帰って、早く金をこしらえて、わしの大事な財産を買いもどしてくれ。」
大成はいった。
「母子がやっと生計をたてております。どうして、そんなたくさんの金ができましょう。」
「紫薇樹《さるすべり》の下に金をしまっておいた。それを掘ってつかうがいい。」
大成はも一度精しいことを訊こうとしたが、老人はもう何もいわなかった。しばらくして大成は夢の覚めたようになって、何をしていたのか茫としていて自分で自分のやっていたことが解らなかった。
大成は帰って来てそれを母に話したが、あまり不思議であるから母もやはり深くは信じなかった。臧はこのことを聞くともう数人の者をつれていって窖《あなぐら》を発《あば》きはじめた。そ
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