こに四、五尺の深さになった坑《あな》があった。しかしそこには石ころばかりで金らしいものはなかった。臧は失望して帰っていった。大成は臧が紫薇樹の下を掘っているということを聞くと、母と珊瑚にいいきかせて視にいかせなかった。そして、後で何もなかったということを知ったので、母がそっといって窺《のぞ》いて見た。やはり石ころが土の中に雑っているばかりであった。そこで母が返った。珊瑚が継《つ》いでいってみると、土の中は一めんに銭さしにさした銀貨ばかりであった。珊瑚は自分で自分の目が信じられないので、大成を呼んで一緒にいってしらべると、やはり銀貨であった。しかし大成は父親の遺したものであるから自分一人で取るに忍びないので、二成を呼んでそれを同じように分け、めいめい嚢に入れて帰った。
 やがて家へ帰った二成は、臧と二人でそれをしらべようと思って、嚢の口を開けてみた。嚢の中には瓦と小石が一ぱい入っていたので大いに駭いた。臧は二成が兄のために愚《ばか》にせられたのだろうと思って、二成を兄の所へやって容子を見さした。兄はその時嚢から出した金を几の上にならべて、母とよろこびあっていた。そこで二成は兄に事実を話し
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